広島家庭裁判所 昭和47年(少ハ)1号 決定 1972年8月24日
少年 B・Y(昭二七・一・六生)
主文
本人を昭和四八年四月三〇日まで、愛知少年院に収容継続する。
理由
(本申請の要旨)
本人は昭和四六年八月一七日広島家庭裁判所にて窃盗・詐欺等保護事件により特別少年院送致の決定を受け、同月一九日新光小年院に入院したもので、昭和四七年八月一六日には右収容期間が満了する予定であつた。しかし、本人は右入院後自動車整備士となる志望を持つに至り、そのため愛知少年院に併設の桜陰自動車学校における職業訓練及び三級自動車整備士の資格取得の指導を希望し、同少年院への移送を申し出た結果、昭和四七年三月二八日右移入され前記学校に入校した。右訓練期間が一ヶ年を要することから、本人は当初から収容継続がなされることを覚悟して敢て右申出をなしたものである。右入校後の本人の訓練は順調に行われ、昭和四八年三月に右訓練終了と共にその頃施行される三級自動車整備士の国家試験を受ける予定で右訓練及び試験準備に熱心に取組んでおり、右試験に合格することは十分期待できる状態にある。
本人の家庭環境は良好でなく、出院後も自立更生に努めねばならず、本人にとつて右訓練を修了し資格を取得することは今後の更生に極めて有益な資格となりうる。従つて、右訓練の修了及び資格取得、及び出院後の保護観察の期間を含めて一〇ヶ月間の収容継続を、少年院法一一条二項により申請する。
(当裁判所の判断)
(一) 本人の社会記録、審判における本人、愛知少年院の法務教官伊藤博、同山田茂の各供述、本人の実兄BOの担当調査官に対する陳述等を総合すると右申請の要旨記載のとおりの事実を認定できるほか、次の諸事実を認めることができる。
(イ) 収容継続となつて身柄拘束を受けてもなお三級自動車整備士の資格をとりたいとの少年の希望は、当初から審判期日まで一貫しており、その信念は強く真実のものとみられる。愛知少年院に転入後はその専門学科や訓練に熱心に取組み、院内の右国家試験の模擬テストにも常に良い成績を修めており、右試験に合格する可能性は大きく、そうすれば本人は将来の有力な更生資源を得ることになるし、更に将来は二級整備士の資格をとり自動車整備工場を持ちたいとの夢を大きくふくらませている。
(ロ) 本人は一四歳時より窃盗などにより四度家裁に事件係属し、初等、中等、特別の各少年院送致決定をそれぞれ受けさらに試験観察、保護観察の処遇も受けてきたほど、かねてから矯正困難な少年であつた。資質の偏奇も大きく、仮退院間もなく再非行に走るなど非行性高く、今回も従前のまま退院しては、その予後は極めて憂慮すべき状態にある。
(ハ) 本人の家庭は実父死亡、(本人の非行を原因とする自殺とみられている)実母は老齢でホテルに住込稼働中、兄弟もそれぞれ独立家庭をもつていて、本人が十分に安住できる帰省先も見当らない。本人は出院後独立、自立して社会に復帰し、更生して行く道しか残されていない。
(二) 以上の諸事実を併せ判断するとき、度重る在宅や収容による矯正教育によつてもなお矯正されないほどの非行性を有し、気弱で自信のなかつた本人にとつて、右整備士の資格を得て整備士への道を歩むことは、本人にこのうえなく生きる自信や社会への自信を植付け、本人の非行原因を除去する手掛となり、再び非行に走らせない有力な資源となりうるものと思料される。もし現段階で本人を退院させるとすれば、その夢の実現は困難となり本人は従前の経過を反覆し、非行に走り犯罪者としての烙印を押される可能性が大きく、結局本人をなお在院させ、右整備士への訓練及び資格取得の指導を完うし、本人の右志望をかなえさせてやることが、かかる非行前歴等を有する本人の矯正教育上重要な不可欠の手段であるといえる。そうするとかかる観点からするとき、本人にはいまだ矯正の余地が残され、少年院法一一条二項にいわゆる「犯罪的傾向がまだ矯正されていない」ものに該当すると解するのが相当で、そのためなお収容を継続する必要がある。
(三) そこで収容継続期間について案ずるに、本申請者は前記国家試験が昭和四八年三月に、その合格発表が同年四月中に行われること及び限院後就職して安定するまで二ヶ月間位の保護観察期間を必要とするので、これらの点
を考慮しで一〇ヶ月間の継続を要する旨申請をなしており、これも十分理解しうるところである。しかし、本人は退院後は一切の過去を捨て去り、そのためには関係機関とも離れ心機一転して社会に復帰したい希望強く、仮退院を嫌い本退院になるまではむしろ収容拘束された方がましだと強く述べている。従つて、当裁判所もこの度は本人の右心情を本人の予後への自信に裏付けられたものとみてこれを十分尊重することが退院後の本人の更生により有益であると思料し、右国家試験の合否が確定する時期に直近するとみられる主文記載の期日までの収容継続を相当と認める。
よつて、本件申請は主文記載の期日の限度で理由あるものとして、少年院法一一条四項により、主文のとおり決定する。
(裁判官 川本隆)